西国三十三所は、近畿地方の2府4県と岐阜県に点在する、33か所の観音霊場です。日本で最も古い観音巡礼とされ、総距離はおよそ1,000kmに及びます。この記事では、成り立ちの伝承と歴史、札所の特徴、全33札所の一覧、御朱印と巡り方の基本をまとめました。西国三十三所は、寺ごとに異なる観音と文化財、景色に出会いながら、何度かに分けて少しずつ巡っていける霊場です。
西国三十三所の成り立ち
西国三十三所は、「西国三十三観音」「西国札所」とも呼ばれる観音霊場です。坂東三十三観音・秩父三十四箇所と合わせて、日本百観音の一つに数えられています。
徳道上人が開き、花山法皇が再興したと伝わる
始まりは養老2年(718年)にさかのぼるとされています。大和国の長谷寺を開いた徳道上人が病で仮死状態となり、閻魔大王から三十三の観音霊場を開くよう告げられたという話です。上人はこのとき宝印を授かり、中山寺の石櫃に納めたと伝わります。今の御朱印は、この宝印が起源とされています。
その後途絶えた巡礼は、平安時代中期に花山法皇が再興したといわれています。法皇は参詣の証として寺に札を打ち付け、各寺で観音を称える歌を詠みました。これが「札所」と「御詠歌」の始まりと伝えられています。
記録では平安時代後期に巡礼者がいた
伝承とは別に、記録で確かめられる早い例もあります。応保元年(1161年)の正月に、僧の覚忠が三十三所を巡礼したことを記した巡礼記が知られています。
今のように那智山の青岸渡寺が1番、谷汲山の華厳寺が33番となったのは、室町時代の中ごろとされています。このころから僧だけでなく一般の人も巡礼に加わるようになり、江戸時代に入るとさらに盛んになりました。東国から来る巡礼者が多かったことが、今の順路や「西国」という呼び名につながったと考えられています。
西国三十三所への憧れは全国に広がり、遠くて訪れにくい人のために、各地に「写し霊場」が生まれました。坂東三十三観音や秩父三十四箇所は、その代表的な霊場です。平成30年(2018年)には草創1300年を迎えました。翌年の2019年には、「1300年つづく日本の終活の旅~西国三十三所観音巡礼~」として日本遺産に認定されています。
西国三十三所の特徴と見どころ
札所は2府5県に広がり、京都府が最多
札所がある府県は、和歌山・大阪・奈良・京都・滋賀・兵庫・岐阜の2府5県です。1番の青岸渡寺は紀伊半島の那智山にあり、33番の華厳寺は札所のなかで最も東の岐阜県にあります。
府県別に見ると、京都府が11か所で最も多く、全体の三分の一を占めます。次いで滋賀県が6か所、大阪府・奈良県・兵庫県が4か所ずつ、和歌山県が3か所、岐阜県が1か所です。都市の中心部にある札所もあれば、山の上や湖に浮かぶ島にある札所もあります。
本尊は千手観音の系統が最も多い
33か所の本尊は、すべて観音菩薩です。ただし、その姿はさまざまで、千手観音の系統が14か所と最も多く祀られています。十一面観音と如意輪観音が6か所ずつ、聖観音が3か所で続き、准胝観音・不空羂索観音・馬頭観音を祀る札所もあります。
本尊を秘仏とし、決まった日にだけ公開する札所もあります。たとえば9番興福寺南円堂は、南円堂の扉が開くのが年に1日だけです。札所を巡ると、同じ観音でも寺ごとに異なる姿と信仰に触れることになります。
国宝や名勝、景色に寺ごとの個性がある
長い歴史をもつ寺が多く、国宝や重要文化財を伝える札所も少なくありません。13番石山寺の本堂は国宝で、滋賀県で最も古い木造建築とされています。3番粉河寺は、本堂などが国の重要文化財、庭園が国の名勝に指定されています。
景色も札所ごとに異なります。1番青岸渡寺の境内からは那智の滝を望めます。30番宝厳寺は琵琶湖に浮かぶ竹生島にあり、港から船で渡ります。27番圓教寺は、書写山の山上に堂舎が並ぶ寺です。
西国三十三所の札所一覧
33か所の札所を、番号順にまとめました。本尊の名称は、西国三十三所札所会の表記にそろえています。
| 番号 | 寺名 | 所在府県 | 本尊 |
|---|---|---|---|
| 1番 | 青岸渡寺 | 和歌山県 | 如意輪観世音菩薩 |
| 2番 | 紀三井寺 | 和歌山県 | 十一面観世音菩薩 |
| 3番 | 粉河寺 | 和歌山県 | 千手千眼観世音菩薩 |
| 4番 | 施福寺 | 大阪府 | 十一面千手千眼観世音菩薩 |
| 5番 | 葛井寺 | 大阪府 | 十一面千手千眼観世音菩薩 |
| 6番 | 壷阪寺 | 奈良県 | 十一面千手千眼観世音菩薩 |
| 7番 | 岡寺 | 奈良県 | 如意輪観世音菩薩 |
| 8番 | 長谷寺 | 奈良県 | 十一面観世音菩薩 |
| 9番 | 興福寺 南円堂 | 奈良県 | 不空羂索観世音菩薩 |
| 10番 | 三室戸寺 | 京都府 | 千手観世音菩薩 |
| 11番 | 上醍醐 准胝堂 | 京都府 | 准胝観世音菩薩 |
| 12番 | 正法寺 | 滋賀県 | 千手観世音菩薩 |
| 13番 | 石山寺 | 滋賀県 | 如意輪観世音菩薩 |
| 14番 | 三井寺 | 滋賀県 | 如意輪観世音菩薩 |
| 15番 | 今熊野観音寺 | 京都府 | 十一面観世音菩薩 |
| 16番 | 清水寺 | 京都府 | 十一面千手千眼観世音菩薩 |
| 17番 | 六波羅蜜寺 | 京都府 | 十一面観世音菩薩 |
| 18番 | 六角堂 頂法寺 | 京都府 | 如意輪観世音菩薩 |
| 19番 | 革堂 行願寺 | 京都府 | 千手観世音菩薩 |
| 20番 | 善峯寺 | 京都府 | 千手観世音菩薩 |
| 21番 | 穴太寺 | 京都府 | 聖観世音菩薩 |
| 22番 | 総持寺 | 大阪府 | 千手観世音菩薩 |
| 23番 | 勝尾寺 | 大阪府 | 十一面千手観世音菩薩 |
| 24番 | 中山寺 | 兵庫県 | 十一面観世音菩薩 |
| 25番 | 播州清水寺 | 兵庫県 | 十一面千手観世音菩薩 |
| 26番 | 一乗寺 | 兵庫県 | 聖観世音菩薩 |
| 27番 | 圓教寺 | 兵庫県 | 六臂如意輪観世音菩薩 |
| 28番 | 成相寺 | 京都府 | 聖観世音菩薩 |
| 29番 | 松尾寺 | 京都府 | 馬頭観世音菩薩 |
| 30番 | 宝厳寺 | 滋賀県 | 千手千眼観世音菩薩 |
| 31番 | 長命寺 | 滋賀県 | 千手十一面聖観世音菩薩三尊一体 |
| 32番 | 観音正寺 | 滋賀県 | 千手千眼観世音菩薩 |
| 33番 | 華厳寺 | 岐阜県 | 十一面観世音菩薩 |
11番の上醍醐准胝堂は、平成20年(2008年)の落雷による火災で堂が焼失しました。現在は下醍醐の観音堂に本尊が移され、参拝と御朱印はそちらで受けます。12番の正法寺は「岩間寺」とも呼ばれ、30番の宝厳寺は竹生島にある寺です。
西国三十三所の巡り方の基本
番号は室町時代の順路、始め方は案内を確認
1番から33番への番号は、室町時代の中ごろに定まった順路です。総距離は約1,000kmあり、2府5県に広がっているため、何回かの旅に分けて計画を立てることになります。どの札所から始めてよいかは、巡り始める前に札所会や各寺の案内を確かめておくと安心です。
納経帳を用意し、参拝後に御朱印を受ける
御朱印は、各札所の納経所で納経帳に受けます。本堂で手を合わせてから、納経所へ向かうのが順序です。納経料は、令和6年(2024年)4月1日に改定され、納経帳は500円、笈摺(おいずる)や白衣への御朱印は300円になりました。ただし、一部の寺院では改定していません。
納経時間は札所ごとに異なります。多くの札所は8時台から9時ごろに始まり、16時半から17時ごろに終わります。1番青岸渡寺は7時30分から、10番三室戸寺は15時10分までと、時間帯が大きく違う札所もあります。境内の拝観料や入山料が必要な札所もあるので、出かける前に各寺の受付時間や料金を調べておくことをおすすめします。
33番華厳寺には満願堂と笈摺堂がある
最後の札所となる33番華厳寺には、満願堂と笈摺堂があります。華厳寺では、本堂・満願堂・笈摺堂の三つの御朱印を授かれます。三つはそれぞれ、現在・過去・未来を表すとされています。
西国三十三所を一度巡拝した人は、先達に申請できます。資格は、三十三所を巡拝した信仰心のある人とされています。申請は各札所の納経所にある用紙で行い、新規の申請料は13,000円です。先達として2度巡拝すると中先達、中先達として3度巡拝すると大先達に申請でき、いずれも先達委員会の審査があります。巡拝の回数は、納経帳で確かめます。
公共交通・車・ツアーを組み合わせて回る
公共交通で巡る場合、札所によっては鉄道の駅からバスやケーブルカー、船を乗り継ぎます。30番宝厳寺へは長浜・彦根・今津の港から船で約25〜40分、27番圓教寺へは書写山ロープウエイを使います。
車で巡る場合は、寺に駐車場がない札所に注意が必要です。5番葛井寺、16番清水寺、18番六角堂頂法寺などは寺の駐車場がなく、近くの駐車場を利用します。旅行会社が催行する巡礼ツアーを使えば、交通や日程の手配を任せて巡ることもできます。
西国三十三所のまとめ
西国三十三所は、近畿の2府4県と岐阜県に広がる、日本で最も古いとされる観音巡礼の霊場です。寺ごとに異なる観音と文化財、景色に出会えます。日本百観音の全体像とあわせて、まずは札所一覧から、訪ねてみたい寺を探してみてください。
参考資料
- 西国三十三所巡礼とは/西国三十三所札所会/https://saikoku33.gr.jp/about/ /確認日:2026年10月13日(徳道上人と花山法皇の伝承、宝印と御朱印、総距離、所在府県、京都の札所数、写し霊場、「西国」の由来)
- ごあいさつ(草創1300年)/西国三十三所札所会/https://saikoku33.gr.jp/1300/ /確認日:2026年10月13日(草創1300年、日本遺産認定の年)
- 西国三十三所 公式サイト トップページ/西国三十三所札所会/https://saikoku33.gr.jp/ /確認日:2026年10月13日(納経料の改定)
- 各札所のページ(第一番 青岸渡寺〜第三十三番 華厳寺)/西国三十三所札所会/https://saikoku33.gr.jp/place/ /確認日:2026年10月13日(宗派、本尊、所在地、納経時間、拝観料、駐車場、交通、上醍醐准胝堂の焼失、南円堂の開扉、石山寺・粉河寺の文化財、華厳寺の満願堂と三つの御朱印)
- 先達会のご案内/西国三十三所札所会/https://saikoku33.gr.jp/sendatsukai/ /確認日:2026年10月13日(先達の資格・申請方法・申請料・中先達と大先達の条件)
- 1300年つづく日本の終活の旅~西国三十三所観音巡礼~(STORY #074)/文化庁 日本遺産ポータルサイト/https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/stories/story074/ /確認日:2026年10月13日(日本遺産のストーリー名、札所と御詠歌の伝承)
- 西国三十三所/コトバンク(デジタル大辞泉、精選版 日本国語大辞典、改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書)/https://kotobank.jp/word/%E8%A5%BF%E5%9B%BD%E4%B8%89%E5%8D%81%E4%B8%89%E6%89%80-67881 /確認日:2026年10月13日(別称、覚忠の巡礼記、札番が定まった時期、巡礼の広まり、「西国」の名の由来)
- 「巡礼」は国境や宗教を越える―日本最古の巡礼道「西国三十三所」がスペイン「サンティアゴ巡礼路」と友好提携/nippon.com/https://www.nippon.com/ja/news/l00309/ /確認日:2026年10月13日(日本遺産認定の年)



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